6/23 #9 Molding & Casting、Composites(後半)

さて、突然ですが、私は、来週月曜日6/30の夜に日本を出発し、スペイン・バルセロナでのFAB10 (第10回世界ファブラボ会議)に出席してきます。日本に戻ってくるのは、7/10(木)ですから、7/1 (TUE)の回と、7/8(TUE)の回は、みなさんだけで「Intro to FabLab」をやってもらうことになります (スペインからSkypeで出れるかもしれません)。

私が次にこのINTRO TO FABLABにリアルに出席するのは、7/15(TUE)になります。
そして、7/15(TUE)は、再び、Roland DGの方々が来て、「monoFAB」の利用成果をレポートすることになっています。なので、それまで結構がんばらないといけないです。ぼくが不在でもばりばりやること。

そして、7/15といえば、もう「最終制作」に時間がありません。このあと、7/15に発表してほしい課題内容を言いますが、7月からは、各自、「最終制作期間が1カ月ある」と思って、すでに制作を始めてください。最終課題とうまく絡めながら、やること。

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さて、「造形編」 (3Dプリンタ、3Dスキャナ、レーザーカッター、CNC)と、「機能編」(Arduino, RasPi, メカ、プログラミング、センサー、アクチュエータ)をやったみなさん、最後の課題は「泥んこ系」、別称「マテリアル」です。課題は、以下のテーマに対する、「創造的なトライ」をしてもらいたいと思います。

1. Molding and Casting

3Dプリンタでは「複雑なかたちのものをひとつだけ」つくることができますが、同じものをたくさんつくることはできません。その場合、3Dプリンタを何度も動かすのでは時間がかかりすぎるため、「型」をつくって、
ひとつの「型」から、同じ立体を量産するということをやります。

この「型」をつくることをMolding (モールディング)、その「型」に材料を流し込んで固め、そこから立体を作ることをCasting (キャスティング)と呼びます。

Molding and Castingでは、いろいろな「素材」を使います。

型(モールド)の側は、金属、シリコン、モデリングワックス、ケミカルウッドなどの材料が、
キャストの側は、同じくゴム系から、コンクリート、氷など、なんでも使えます。

Molding and Castingで一番最初に考えなければいけないことは、”「素材」の組み合わせ”です。

というのも、型(モールド)から、そこで固められた立体を取り出すときに、どちらもが固いもの同士であれば、抜き出すことができません。どちらかが柔らかければ、少しピンセットや先が細いものを差し込んで抜くことができる、あるいは、(型が再利用できなくなってはしまいますが)かなづちで叩いて壊して、中身だけを抜くことができる(「砂型」など)。 でも、どちらの場合にせよ、「2つの材料が同じような硬さ」であってはだめです。

ですので、まず、最終的に何の素材で立体をつくりたいのかを考えましょう。そして、それをつくるための「型」の素材は何が適切なのかを考えましょう。

ところで、「型」をつくる際には、2つのアプローチがあります。

[A]  CNCマシンで「型」を削りだして、そこに材料を入れて固めて、立体をつくる。
[B]  3DプリンタやCNCマシンで「立体」をつくりだして、それを「型どり」して、それを固めて「立体」をつくる。

これについては、すでに今学期に前例があります。

綾田さんのチョコレート
http://aytk24.tumblr.com/post/87661598899/cnc-milling
浅野先輩のキャンドル
http://asanoqm.tumblr.com/post/85511250188/my-birthday-candle

これらのアプローチをよく勉強しましょう。
ちなみに、CNCは、原則的に、Rolandの新型「monoFAB (S)」を使ってください。
聞くところによると、従来のModela、i-modelaの「4倍」の速度で削れるそうです!!!
Molding and Castingの一般的な失敗例、注意するところは以下です。

1. まず環境と身支度をすること。
この作業は、z104でも、z303でも、「部屋のなかで行ってはいけません」。
ゼータ館の中庭、扉の外で行ってください。作業時は、ゴム手袋をしてください。
また、廃液を絶対にキッチンに流さないでください。

2. ゴムにせよ、コンクリートにせよ、これらは「A液」と「B液」を混ぜると硬化が始まります。
その場合、「A液」と「B液」の配合の割合が決定的に重要になります。説明書をよく読んで、適切な配合にすること。そして、その際には必ず「はかり」で重さをはかってください。目分量でやると失敗します。寸分たがわぬ量を混ぜること。

A液とB液を混ぜる際、しっかりとかき混ぜてください。かき混ぜが足りないと、泡が出ます。

3. 次に、研究室に、オーブンレンジを用意してください(いまはo502にあると思います)。福田さんお願いします。オーブンレンジで温めると、硬化が著しく速くなります。ただし温度設定は慎重に!

ここで覚えてほしいキーワードに「MSDS (Material Safety Data Sheets)があります。
市販されている「材料」は、必ず、ほかのあの材料と混ぜてはダメ、この温度以上にしてはダメ、という安全性能と、耐久性能が書かれた「シート」が付属しています。これは、ネットでも検索して落とせます。

素材は、時に危険なものです。液体をこぼして、指の指紋を無くしてしまった学生も、過去にはいました。また、混ぜてはいけないもの同士を混ぜてしまった学生もいました。必ず、MSDSを読んで、その特性を調べて確認してから扱う、という習慣をつけてください。事故が起こってからでは遅いのです。

4.  それでも、硬化中に泡が浮き上がってしまうタイプの材料の場合には、針で一生懸命にそれを潰していきます。(いま、それをCNCでやれないか画策中なのですが)。

ところで、いまそこにいる、森川このみ先輩は、実は「かたどり」の天才少女です。
いろいろなTipsは、このみ先輩から聞くとよいでしょう。

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ところで昨年はこの課題でIntro to Fablabが熱く燃え上がりました。
ひとりひとりバラバラではなく、履修生が全員でグループワークですごいことをはじめたのです。
きっかけは、このビデオでした。

浜辺で、砂型に、溶かした錫を流し込んで固めて、椅子をつくっている!

そこで、田中研の学生たちが実施したプロジェクトがこちらです。見てください、先輩たちのこのパワー。

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さてしかし、今回、ただ全員が「Molding and Casting」をするだけでは、ちょっと面白くないですよね。全員がmonoFABに偏ってしまったら、機械の順番待ちにもなってしまうし、もう少し可能性を広げておいたほうがよさそうです。そこで提示しておきたいのが「Composite(複合材料)」のキャスティングです。

ここでまず、z303のベッドの横の棚の上にある、コンクリートで固められた、雑巾の曲面体を降ろして、
みんなの見えるテーブルの前においてください。

これは3年前に、intro to fablabで、升森くんがつくったものです。灰色のと、赤みがかっているのの2つがあるはず。

これは、雑巾にコンクリートを浸して、吊り下げて固めたものですが、この手法を「Fabric Casting (ファブリック・キャスティング)」といいます。以下をクリックしてください。

https://www.google.co.jp/search?q=fabric+casting&newwindow=1&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ei=LAinU_nCDIWbkwXJ8IHwCA&ved=0CAgQ_AUoAQ&biw=1536&bih=777

ほかにも、Tシャツをレジンで固めたものなんかも、この手法に入ります。

この手法は、ふつう、「柔らかい布」を「硬い材料(コンクリート)」で固めたものでしょ、と解釈されがちですが、実はそれは大きな間違いです。

「布」と組み合わさることで、「コンクリート」も「硬く」なっているのです。

どういうことでしょう?
布が「柔らかい」、コンクリートが「硬い」という先入観を、まず捨ててください。

実はあまり知られていませんが、コンクリートというのは、壊れやすい材料です。左右からちょっと手で引っ張れば、すぐに破壊できます。どういうことかというと、

コンクリートは、圧縮(力を内部に押しつける)には強いが、引っ張り(外側に引く)にはめっぽう弱いのです。方向性があるのです。

逆に、布は、引っ張りにはめっぽう強く(破れたりしない)、圧縮にはめっぽう弱い。

なので、この2つを組み合わせることで、お互いの弱点を消し、長所を組みあわせられるのです。
こうした材料の組み合わせ方をComposite(複合材料)と呼びます。

SFCの建物の壁はコンクリートですが、この中には「鉄筋」が入っており、これはただのコンクリートではなくて、「鉄筋コンクリート」です。この「鉄筋」は、引っ張りにはめっぽう強く圧縮にはめっぽう弱い、という意味で、先の「布」と同じ役割を果たしています。鉄筋コンクリートも、広い意味では、複合材料です。

コンクリートの中の鉄筋も、布の繊維も、同じような役割を果たしているわけです。

また、FRP (強化繊維プラスチック)というものがありますが、これも同じ発想。プラスチックを繊維でより丈夫にしています。そして、宮城大学の土岐先生の扱われている FRU (麻布を重ねて、漆ぬりで固める)も同じ性質。これらはすべて「Fabric Casting」です。

ちなみに、土岐先生の作品では、レーザーカッターで組んだ「型」に、布を張って、かたちを固定し、そこに漆を塗っていきます。http://www.kenjitoki.com/

つまり、Molding -> Fabric -> Casting、というアプローチなのです。
こちらのリンクを見てください。
http://kenjitoki.com/imageGif/research/FRUstool.pdf
ここは、福田きょうこさん、詳しく説明してください。土岐先生の一連のうるしの仕事です。

つまり
・3DプリンタやCNCだけではなく、「 レーザーカッター」で「型」を組むこともできる、という発想の広がり(ほー!)
・ 布を積層させて、そこに材料を塗りこむということもできる

今回、「型」だけではなく、こういうアプローチでもよいことにしようと思います。これで、課題の幅がかなり広がったのではないでしょうか?

今回の課題は総じて「材料をつかう、材料をつくる」という言い方もできるかもしれません。
そうなると実はこのこととセットなのが「材料をはかる」ということなんです。

いま田中研には、非接触の温度計がレーザーカッターの前にあります。あと、はかりで重量をはかるか。
その他にも、強度計(圧縮試験、引っ張り試験)を導入する予定も、近い将来に本当にあって、これから順番に「測る」系の機材も揃えていきたいと思っています。是非みなさんも、この「つくった材料をはかる」という
意識も持っていてください。耐久性とか、安全性とか、そういった側面が大事になってくるからです。

きょうこさん、ここで、o502の現状を説明してください。
「ろくろ」や「釜」など、o502でもマテリアル系の高度な作業が出来ます。場合によっては、使用してください。

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さて、ひととおり課題を説明しましたが、最後にまだ課題があるんです。
今回は、2週間あるので、課題も「2つ」あるんです。長いですね。あとすこしの我慢。

もうひとつの課題は、「Roland MonoFABの未来を考える」というものです。
今回、RolandDGさんから、A型(Additive)と、S型(Subtractive)の2機をお借りしているのは、
この「2機の組み合わせ」で何ができるか?ということを考える役割を、我々が担っているからです。

これは共同研究の一環ですね。

ふつうに考えると、
A型(Additive)は「試作用」。最終的にはS型(Subtractive)で「型」をつくって量産する。

という組み合わせしか考えないそうです。Aで何度も試して、Sで本格的につくる。
しかし私はそれだけではないような気がしています。

A型(Additive)は「材料の足し算」。S型(Subtractive)は「材料の引き算」なんだから、
Aで出した3Dプリント品を、Sで表面を少し削ってツルツルにしたりできないかなーと思ったり、
穴をあけたりできないかなーと思ったりします。AとSを対等につかうことはできないのかな。

もしくは、それぞれで得意な素材を得意な加工法で「部品」をつくり、2つの部品を組み合わせて何かにする、といった。

そこでみなさんに考えてほしいのが、「A型(Additive)とS型(Subtractive)の新しい組み合わせ技」です。2台セットであって、はじめて可能になる「ものづくり」とはどんなものでしょうか?

コレ、ひとし先輩にもいろいろ聞いてください。彼は3Dプリンタおにいさんなので、A型についてはいろいろアドバイスをくれると思います。今週はS型もからめてもっと使っていきましょう。

以上、2つの課題 (1.5といったほうがいいかな?)を出しました。 7/15には、それぞれの課題に対するみなさんなりの創造的な回答を期待しています。そして、この課題で取り組むことが、そのまま最終制作にも活かせるように、うまく考えてみてください。

スペインにいるあいだも、Facebookは見るようにするので、なにか質問があればいつでも投げてください。あと、来週の土曜日はNUに、月曜日はSFCにいるので、最終課題の相談などがあれば、してください。

では、Good Luck!  楽しみにしているよ!!

質問は、あさの先輩とこのみ先輩へ。